葉付きにんじんと長ネギのチヂミ
2017-05-29


「孫が、あなたは有名人だって言うので、これにサインしてやってくれませんか?」

と、航空券を差し出してお願いしました。

ロジャー・ムーアは快諾して航空券の裏にサインをしたのですが、ヘインズさんはそのサインを見て顔を曇らせました。

憧れの人がサインしてくれたのに、どうして顔を曇らせたかというと・・・、

そのサインが《ジェームズ・ボンド》ではなく《ロジャー・ムーア》だったからです。

そうなのです。ヘインズ少年は、ロジャー・ムーアがジェームズ・ボンドそのものだと思っていて、ロジャー・ムーアという名前すら知らなかったのです。

ヘインズ少年はサインの名前が違うと祖父に訴えました。すると、孫が可愛い祖父は、またもやロジャー・ムーアにこう言いに行きました。

「孫が言うには、サインの名前が違っているそうで。あなたの名前はジェームズ・ボンドだって言うんですよ」

一瞬で事を察したロジャー・ムーアは、ヘインズ少年を手招きして呼び寄せると、身を屈め、左右に視線を走らせてから、彼の耳元でひそひそ声でこう言ったそうです。

「私は《ロジャー・ムーア》という名前でサインしなければならないんだ。ブロフェルド(007に敵対する悪役の名前)に居場所がバレてしまうかもしれないからね。お願いだから、ジェームズ・ボンドを見たことは誰にも言わないでおくれ」

〈そういうことか・・・〉

ヘインズ少年は事情を理解し、「わかりました」と返答すると、ロジャー・ムーアは彼にありがとうという意味の無言の礼を返したといいます。

ヘインズ少年は007といっしょに任務を遂行しているような気分になり、心臓がバクバクしたまま祖父のところに戻りました。


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