「おはよう椅子。おはようベッド。おはようトイレ・・・」
ジャックは部屋の中にある物すべてに、朝のあいさつをして回ります。それが日課なのです。
ジャックはその監禁部屋から1歩も外に出たことがなく、そのためにその部屋が《世界》そのものであり、天窓から見える空は、その《世界》の景色でしかありません。
テレビはあるのですが、ジャックにはテレビに映し出されているそれが《外の世界》のことだという認識はなく、あくまでもテレビという玩具が映し出している虚構だとしか思っておらず、この世には自分とママと、食べ物を運んでくる監禁男のニックしか人間はいなくて、部屋の外には何もないと思っているのでした。
結果として、ふたりはこの監禁部屋から脱出するのですが、だからこそのDVDパッケージの画像のキャッチ・コピーにある《はじめまして【世界】》なのです。
で、
監禁部屋から脱出し、ふたりは涙ながらに自由を手に入れ、そしてエンディング・・・なのだろうと思っていたら、そうではないんです。
映画の真ん中あたりで脱出には成功するのです。
ジョイは両親に再会しますが、ジョイだけでなく、両親も心に傷を負っており、
マスコミの興味本位な報道や取材。
孫のジャックが監禁男との子だという事実への、両親(とくに父親)の葛藤。
《本当の世界》に触れることになったジャックのとまどい。
なんとしても生き延びジャックに《外の世界》に連れ出してやりたいと、それだけを願って生きてきたジョイは、それが叶ったいま、自分の存在価値を見失いそうになり、
そんなときに、テレビのインタビュアーの無神経な言葉のせいで、ジョイは自殺を図ってしまうのでした。
《今の世界》と《あの世界》と、いったいどちらがしあわせだったのだろう・・・と、くらべるまでもないことで思い悩むようになるジョイ。